国際講演会「カナダにおける地層処分計画の現状と今後」開催報告

国際講演会
カナダにおける地層処分計画の現状と今後


開催日:2017年3月10日(金)

 kokusai_170310_1.jpg

NUMOは、これまで諸外国における地層処分の取り組み等について、シンポジウムや講演会などを開催し、ご紹介しています。

2017年3月10日(金)には、カナダの放射性廃棄物処分の実施主体であるNWMO(核燃料廃棄物管理機関)の前理事長ケン・ナッシュ氏をお招きし、カナダにおける地層処分計画や地域住民との対話活動などについて、ご講演いただきました。

講演に続き、ケン・ナッシュ氏とエネルギー問題の専門家である竹内純子氏及び当機構の近藤理事長による座談会を行いました。そこでは、カナダのサイト選定プロセスにおける具体的な進め方をお伺いしながら、地層処分における一般の方々との対話活動のあり方などについて、意見交換が行われました。当日は応募された市民の皆様約130名が聴講され、会場からの質疑・応答も行われました。

以下に、講演や座談会の概要、講演資料、当日の模様(ダイジェスト動画)をご紹介します。

 

日時 2017年3月10日(金) 13:30~16:00

場所 建築会館ホール

 

【以下、敬称略】

>開会挨拶   近藤 駿介(原子力発電環境整備機構(NUMO) 理事長)

>講演「カナダにおける地層処分計画の現状と今後」  ケン・ナッシュ(NWMO 前理事長)

>質疑応答

>座談会

1) サイト選定手続きについて
2) 国民・地域への理解活動

ケン・ナッシュ

竹内 純子(NPO法人国際環境経済研究所 理事・主席研究員、筑波大学客員教授)

近藤 駿介

 

 開催挨拶

 

近藤 駿介(原子力発電環境整備機構(NUMO) 理事長)

 

近藤理事長

このたび、NWMO前理事長のケン・ナッシュ氏よりカナダでの地層処分の取り組みについて、ご講演をいただけることとなり、ナッシュ氏には心から感謝する。

日本の地層処分事業の状況を簡単にご説明すると、2000年に法律で高レベル放射性廃棄物を地層処分することが定められ、事業主体としてNUMOが設立された。NUMOは2002年に文献調査を受け入れていただける自治体の公募を開始した。しかし、2007年に至り初めて東洋町から応募があったものの、同年には応募が取り消され、アプローチ・手法の見直しが必要となり、検討がなされてきた。その結果として2015年に政府のこの取り組みに関する基本方針が改定され、地層処分の取り組みは現世代の責任であること、将来の政策変更で地層処分以外の取り組みが採用される可能性に備えて廃棄物の回収可能性を担保すること、協力していただく自治体に国民が感謝と敬意の念を持つことを国民の共有するところとなるように努力するべきことなどが定められた。以来、NUMOは全国各地での意見交換会やこのような講演会を開催し、国民の皆様に、この考えをお示しし、意見交換を行ってきている。本日の講演会ではまずナッシュ氏にカナダにおける地層処分計画に関してご講演をいただき、その後、座談会形式で、サイト選定における対話活動などについて意見交換を行う。

 

 講 演

 

「カナダにおける地層処分計画の現状と今後」
ケン・ナッシュ(NWMO(核燃料廃棄物管理機関)前理事長)

 

・カナダの原子力発電計画と使用済燃料

 

トーマス・エルンスト氏

最初に、私はNWMOの前理事長ではあるが、ここでのお話はNWMOを代表するものではなく、個人としての見解をお話しするものであるということを明確にしておきたい。

カナダでは、エネルギー政策は州政府の所管であり、原子力発電を用いるかは州政府が決めるが、原子力発電所と放射性廃棄物の安全管理の規制は連邦政府の管轄である。現在19基(オンタリオ州に18基、ニューブランズウィック州に1基)の原子力発電所が稼動中で、全てカナダ型重水炉(CANDU(キャンドゥ)炉)である。その総発電設備容量は12GWで、これまでに合計5.2万トン(ウラン換算)の使用済燃料が発生しており、その約92%はオンタリオ州で保管している。これら全ての原子力発電所の運転終了までに発生する使用済燃料は総計12万トン(ウラン換算)と推定される。CANDU炉の燃料は天然ウランであるため、濃縮ウランを用いる軽水炉と比較し多く感じるかもしれない。使用済燃料は各発電所の使用済燃料プールで20~25年間貯蔵された後、乾式キャスクで貯蔵される。乾式キャスクの設計寿命は50年以上であり、すでにオンタリオ州で貯蔵が開始されている。これらはその後、地層処分される。

 

・使用済燃料処分の概要経緯

カナダでは、1978年にカナダ原子力公社が中心となり使用済燃料地層処分場(DGR)の研究開発が開始された。1989年に政府が設置した環境評価パネルは、1998年に出したDGRの評価報告書で、DGRは概念的には安全だが国民の支持が不十分であるとし、52の提言を行った。この提言に基づき2002年に成立した核燃料廃棄物法は、電力事業者に対し、核燃料廃棄物管理の代替案の検討や、長期的な信託基金の設立、および核燃料廃棄物管理機関の設置などを要求し、同年に核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立された。

NWMOは国民との対話を重ねて「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)を2005年に政府に推奨し、2007年に政府に承認された。NWMOはこれに基づくサイト選定プロセスを策定し、2010年に、関心表明に進むための学習に地域を招致することからサイト選定プロセスを開始した。地層処分を学びたい地域を募集し、初期調査で要件を満たした21地域が第3段階"使用済燃料処分場の潜在的な適合性の予備的評価"の第1フェーズ(前期;机上調査)に進んだ。このフェーズでは2014年までに、21地域を評価し、より適した9つの地域に絞った。2015年より第3段階第2フェーズ(後期;現地調査)を開始し、2023年頃までに1箇所に絞りこむ予定。

 

・「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)

"適応性のある段階的管理(APM)"は市民と専門家との対話から作られた。3年にわたり全州を対象に、2,500人のアボリジニと500人の専門家を含む計18,000人を対象とした調査を実施した。ここでの意見から、国民が考える最優先事項は、安全性とセキュリティ、現世代が責任を持って行動すること、国際的な最良の知見・教訓の活用などであるとわかった。

国民との対話や専門家の意見を統合し、要望された優先事項も反映した最良の手法として、2005年にNWMOはAPMを開発しカナダ政府に提案した。2007年に政府がこれをカナダの計画として承認した。"適応性"が必要なのは、事業が長期であり、新技術への適応や、社会的選好の変化への適応が必要なためである。

APMは、技術的方策と管理システムから構成されている。技術的方策は、地層処分場での使用済燃料の集中的な閉じ込めと隔離、継続的なモニタリング、回収可能性などである。管理システムの特徴は、各段階で合意に要する時間は予測不能なため、期限を設けず、柔軟なペースで進める点である。また、アボリジニを含む様々な人々が参画し、レビューされ合意が得られた後に進められることになっている。

この高度な技術の国家基盤計画は、NWMOがカナダ国民のために行い、投資額160~240億ドル、数千人の雇用を生み、地域福祉を促進する100年以上にわたるプロジェクトで、地域との協調が重要である。

 

サイト選定プロセスの進展状況と今後

2008年より、選定プロセスの検討段階から様々な人々に参画いただき、ともに設計した。これが信頼性の構築にも寄与し、2009年にともにプロセスを策定し、2010年に公衆の検証を経てサイト選定プロセスを開始した。

これら各段階における意思決定には、地方自治体(原子力施設のある4つの州の地方自治体連合フォーラムやカナダ原子力受入自治体協会)や、アボリジニの人々、一般公衆、連邦政府や州政府など、様々なカナダ人に関与いただいた。

このサイト選定プロセスの主な要素は、原則や意思決定手順、安全に係る基準、地域福祉の確保、地域支援、第三者レビューの役割、規制の監視などである。

主な原則は、安全重視、原子力施設のある4つの州に焦点をあてること、地域は撤退する権利を有し、関心を持つ地域が主体的にサイト選定プロセス進める、ということである。

2010年に開始したサイト選定プロセスでは、関心を持つ地方自治体に対し、初日は事務所で説明し、2日目に使用済燃料貯蔵施設の視察で管理方法など直接見ていただき、3日目に更に議論を交えたが、当初は懐疑的だった地域の指導者たちの多くが視察により、著しくオープンな考えに変わり、視察は非常に意義があった。更に学びたい22の地域に対し、既存の地質情報による概略評価の提示や、貯蔵施設の視察会、第3者の専門家へのヒアリング費用等を支援した。22地域のうち1地域は地質に関する理由で断り、21地域が合意し、次のプロセスである第3段階第1フェーズに進むこととなった。(18地域がオンタリオ州、3地域がサスカチュワン州)

第3段階第1フェーズの目的は、安全要件を満たす可能性、および事業が地域の福祉に貢献できる可能性が極めて高い地域に絞りこむことであり、利用可能な地質環境情報に基づく詳細な地質評価、工学的設計や輸送に関する評価、および地域のグループ会や学校への情報提供、地域イベントへの参加、更なる貯蔵施設視察などの理解の促進に努めた。またNWMOとは独立に、規制当局が地域を訪問し、安全性の確保について説明した。事前の概略評価結果はNWMOと地域ともにレビューし、ウェブサイトに掲載された。2014年までに21地域を評価し、有望とされた9地域が第2フェーズに進むこととなった。

現在実施中の第3段階第2フェーズの目的は、詳細なサイト評価に進むための適地の選定について確信を得ることで、航空調査、地上踏査やボーリング調査等が行われる。輸送ルートも検討するため、関与する地方自治体が増えた。また、規制当局が参画に同意し、強く連携している。オンタリオ州の大半の土地は国有地だが、この土地利用に関しては先住民と協議するよう規制要件に定められており、彼らと関係を構築し協働することがサイト選定の成功には不可欠である。早くて2023年にサイト選定予定だが、人々との協議で進めるため遅れる可能性もある。

 

技術研究開発

NWMOは11大学と共同研究を実施し、スウェーデン、フィンランド、フランス、英国、スイスと協力協定を締結し、様々な技術開発を共同で行っている。

人工バリアのひとつである使用済燃料を入れる容器は、軽水炉用の容器をカスタマイズするが、軽水炉燃料に比べCANDU炉燃料は短いため、容器も小さく製造や取扱いも容易となる。2023年頃のサイト選定の前に、人工バリアの安全性能確認試験を実施予定。

 

規制当局の関与

カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、許認可の前から、NWMOとは別に独立機関として、地域の会合等に出席し、安全要件の説明を行っており信頼醸成に役立っている。CNSCは、NWMOのケーススタディや地質調査のレビュー、人工バリア設計のレビュー等も行う。

 

 

<質疑応答>

皆様より事前にいただいたご質問からケン・ナッシュ氏にお聞きします。

 

事前質問1

カナダの地下研究施設の現状と将来展望、および技術開発との関係性について教えて下さい。 

 

ナッシュ

カナダは1978年に地層処分の開発に着手しました。地下研究所をマニトバ州に設立し、約10年間、技術開発の成果を上げましたが、90年代に役目を終え、閉鎖されました。技術開発の責任はオンタリオパワージェネレーション(OPG)社に、その後、NWMOに引き継がれましたが、カナダは現在、地下研究所を所有せず、スウェーデンやスイスの地下研究所で共同研究を行っている。地下研究所はとても重要であり、これらの共同研究に参画しています。

 

line.gif

事前質問2
日本では地震を心配する人が多いですが、カナダでは地震について考慮していますか。

 

ナッシュ

カナダにおけるサイト選定要件では、地層処分場は地震活動の小さい地域であるべきとなっています。幸運にもオンタリオ州はどの地域も地震活動が小さいのです。もし西海岸のバンクーバーであれば必ず考慮が必要です。

 

 

line.gif

会場からの質問1

地方自治体(P20 Municipal)と地方自治体政府(P21 Municipal Government)の違いは何ですか?また「適応性のある段階的管理」が対話から生まれたという点を詳しく教えてください。

 

ナッシュ氏

Municipalは地方自治体の人々の意味で、Municipal Governmentは首長と地方自治体の議会という意味ですが、同じように使うことがあります。

"適応性のある段階的管理"については、NWMO設立時の人選においては、主なスタッフとして社会科学者、コミュニケーションの専門家、専門アドバイザを選び、地層処分の調査担当者などすでに地層処分に固定観念を持った人は選びませんでした。各州で専門家も交え、様々な対話活動を行い、共通のベースを構築し、APMの原案を作りました。原案の評価メンバー(フォーカスグループ)は無作為に電話で選ばれ、彼らに使用済燃料や地層処分の話をして理解いただき、原案への意見を聞き、何度も修正と検証を行い、国際的なベストプラクティスにも合致した"適応性のある段階的管理"ができました。アボリジニの人々の考えなど、カナダ特有の文化も考慮して作られています。

 

line.gif

会場からの質問2

2011年3月11日以降、福島をどうみていますか。またアボリジニの長老や子供たちとどう関わりましたか。対話の場の作り方へのアドバイスがあれば教えてください。

 

ナッシュ氏

3月11日については、カナダにとっても心が痛む出来事で、最大限の協力を行ってきました。我々も自然事象の影響評価を見直しました。地層処分の利点のひとつは、使用済燃料を長期間そのままにしておくことに比べて、自然事象の影響からの保護を提供することです。

アボリジニの長老たちは経験豊富で知識もあるので、若い人が一緒に話を聞くことは有用でした。自分は植民地化の話では罪悪感を覚えましたが、対話で学んだのは、彼らが土地と非常に密接な関係を持ち、環境保護にも強い関心を持っていたことです。彼らは我々の活動によく参加し意見をくれ、今では友人もいます。我々は航空調査や地表踏査も、地元の同意を得て行うのですが、多くの場合、アボリジニの人々は調査への同行を希望し、そこで儀式を行いました。スピリチュアルな人々で、岩の声や天から声などを聞き、地層処分にはこの場所がよい、などの声を伝えてくれました。西洋の科学とは異なる興味深いプロセスでした。

 

 

 座談会

 

座談会 竹内氏

サイト選定プロセスに関する話と、その中で行われている理解活動やコミュニケーションについてうかがっていきたいと思います。まず1998年にDGRが概念的には安全だが国民理解が得られていないということで、52の提言がなされたとお話がありましたが、これについて簡単にご紹介いただけますか。

 

ナッシュ氏

多くの提言は、DGRが適切なアプローチで行われず国民に支持されていないというものです。DGRは科学者主導で行われ、透明性がなく、国民参加もなかったと指摘されました。環境パネルは6人のうち3人が技術者、3人が社会学者、1人はアボリジニの方でした。提言には、先住民の考え方や伝統的な知見の尊重というものもあります。また政府が決めるべきでなく、廃棄物の発生者の責任で、最終処分を検討することが提言され、廃棄物発生者たちも合意し、NWMOが設立されました。政府機関が決めた国ではうまくいっていません。スウェーデンやフィンランド、スイスなど、廃棄物の発生者による組織が設立された国では、着実に事業が進められています。また、提言に基づき設置された諮問評議会(Advisory Council)が非常に効果的に機能しており、NWMOにとって有用な提言でした。

 

竹内氏

国民を巻き込む形で合意形成がなされていなかったと、多くの勧告があったという点は我々のプロセスを考えるにおいても、大きな示唆があると思います。その後、カナダでは3種のアプローチとして、地層処分、長期管理、核種分離が検討され、地層処分になったかと思うのですが、どのぐらいの時間をかけて決められたのでしょうか。APMより前のことです。

  

ナッシュ氏

APMの実行前までということですか?NWMOが2005年に政府に推奨した案では、地層処分案の確立は早くて2035年とあり30年かかるわけです。NWMOはこれまでの経験より、サイト選定プロセスに時間を要しているため2040年ぐらいになるだろうと思っているかもしれません。まだプロセスの過程であり、今後順調にいくかわからないところもあります。

  

竹内氏

対話から生まれたAPMは非常にユニークな手法で、選択の余地があるところは大きな示唆がありますが、一方でそれによって生じる時間や労力、コストはいかがでしょう。

  

ナッシュ氏

費用は関心事項の1つであり、廃棄物発生者が信託基金を作りそこに拠出金を積み立てます。地層処分の実行が遅れれば、コストは実際のところ下がることになります。その理由は、主要な支出がそれに間に合えばよいことになるからです。例えば、地層処分が2035年から2045年に遅れると、信託基金への拠出金は減ることになり、コストはカナダでは大きな論点にはなっていません。

 

竹内氏

近藤理事長、期間が長くなると、一度に大きな負担とならないということでしょうか。

 

近藤理事長

地層処分の開始が遅れると、その間に研究開発等を続ける投資はかかるので、費用がかさむと考えがちですが、一方で基金なので運用により増えることもあるわけです。オランダは人口が少なく、費用徴収の課題があるため、100年間は貯蔵すると決め、その間に基金で運用益を増やす意図があります。ナッシュ氏のご発言は、その期間にきちんとプロセスを踏んで、進めていくということのほうがより重要ということです。

 

竹内氏

マイナス金利で考えてはいけませんね。次にサイト選定プロセスについてお聞きしましょう。NUMOによれば、カナダの公募制は日本の公募制を参考にしたとのことですが本当ですか。

 

ナッシュ氏

我々は様々な実施主体の成功例や失敗例など数多くの事例を学んでいます。NUMOも初期の2007年に東洋町での例がありましたね。これはいわゆる"警鐘(wake-up call)"でした。西洋では"measure twice and cut once"慎重に行動せよという言い回しがあり、サイト選定プロセスを始める前からとても慎重になる必要がある、ということです。特に政治的リスクです。地方議員は、サイト選定プロセスに入ると、興味を示したり、またはNUMO等の機関と対話したりすることも慎重になります。

  

竹内氏

日本では公募制がうまくいっていませんが、理事長にお考えをお聞きしたいと思います。

 

近藤理事長

2002年から公募制を採用しましたが、2007年に東洋町からようやく応募があったもののうまくいきませんでした。ご講演で、使用済燃料貯蔵施設を直接見ていただいたことが非常にインパクトがあったとのことです。2002年は日本では地下研究所すらない時代で、地層処分がどのようなものか皆さんと共有できたのかと考えると、応募があったこと自体、幸運だったのかもしれません。現在は、幸いにも瑞浪や幌延があり、見学希望者は見て考え方が変わったという方も多く、理解を深めていただけるようになりました。2011年以降は、更にそういう問題意識をもって情報提供と対話に取り組んでいます。

  

竹内氏

まだサイト選定手続きに入る素地ができていなかったということかと思いますが、カナダにおいて広く国民理解を得るためにどのような努力をされたのか教えてください。

 

ナッシュ氏

私は技術者で広報担当ではなかったので、直接的にお答えできませんが、NWMO設立時3名の女性が主導者でした。初代の理事長はエリザベス・ダウズウェルという女性で、国連の環境部局の責任者だったことがあり、環境問題の専門家の間でも有名で、気候科学者でもあり、政策策定や人々の関与を促す方法も熟知していました。もう一人の女性は元政府関係者で、政策策定や政府とどう対話するかを把握していました。もう一人の女性は社会科学者でした。3名が対話活動を先導しました。技術者や科学者の対話方法では解決できないとわかりました。15年前は業務を遂行させたい気持ちの強い技術者が対話活動も行っていましたが、現在ではNWMOは公衆に参画してもらうことに重点をおき、技術的知識ではなく、社会科学的知識を持って対話をしています。

 

竹内氏

近藤理事長、技術者や科学者の対話方法ではだめだと言われていますが、どうですか。

 

近藤理事長

餅は餅屋というのは大事です。この事業は人々が受け入れてくれなければできません。心と心で会話できる人でないと仕事になりません。この実現のためにそのような専門家の意見を聞いていますが、さらに努力が必要と思っています。この点で、NWMOのWEBサイトは大変に良い参考になる情報がありますので、覗いては勉強させていただいています。

 

ナッシュ氏

初代の理事長エリザベス・ダウズウェルが「問題解決には科学と社会の結婚が必要」といっていました。科学も必要ですがそれだけでは不十分で、対話のドアを開く役目は、社会科学者が担い、まずは彼らが対話を始め、その後、住民が詳細を聞きたくなった際に、科学者が説明をするという、両者でバランスよく対話活動を行うことが重要です。

 

竹内氏

竹内氏

ご指摘の通り科学者がきちんと対話に関与することも大事です。科学者が、自分は対話が苦手だからと、社会科学者に丸投げする場面も見受けられるように思いますが、両方がそれぞれの役割を果たすことが必要というのはおっしゃるとおりだと思います。もう1つ、プロセスに関して、日本はこの問題について、地方自治体の関与やその意思決定プロセスが明確ではない部分が多いのですが、カナダの州政府の意思決定プロセスを教えてください。

 

ナッシュ氏

原子力関連の規制は連邦政府が所管し、原子力を使うかは州政府が決めます。放射性廃棄物管理においては、連邦政府の規制当局や州政府との対話は重要であり、NWMOは常に彼らと継続的に連絡を取っています。政府の大臣もよく変わりますが、政府や州の責任者は、そのような責任について不安に思う人もいるので、なぜNWMOがこの事業を行っているかその必要性も理解いただく必要があります。長期的にカナダの人々を守るためにNWMOが国民の代わりに行っているのであり、容易ではないですが、必要な事業であると説明します。政府や州に関与してもらうため友好な関係を維持し、連邦政府や州の政策方針にも合致するよう、時間をかけた対話が必要となります。また政策の優先順位も変わるので、それに臨機応変に対応することも必要です。

 

近藤理事長

日本と違うのは、州政府がエネルギー政策の責任者というところであり、カナダの原子力政策はオンタリオ州の政策とも言えます。講演を聞いていて、鍵と思ったのは、Municipal、つまり日本でいう市町村との関係がうまく設計された点です。市町村の人々と直接対話する前に、例えばカナダ原子力受入自治体協会との対話もあったというお話がありましたが、対話方法が我々より豊かです。この点を詳しくご紹介いただけますか。

 

ナッシュ氏

ナッシュ氏

2007年に使命を託された時、NWMOは連邦政府と州政府、更に地域のオピニオンリーダー、産業界のオピニオンリーダー、放射性廃棄物をすでに所有する地域のリーダーなどと、良好な関係を持ちました。彼らは全く地層処分のことを知らないため、彼らとの間に大きな溝がありました。このため会合を開催し、市町村のリーダーに参加いただくと、選定プロセスや対話活動に対し積極的に意見をくれました。これら複数の州のリーダーが委員会メンバーになり、有用な情報もくれました。また彼らの会合にも招待され、これも有用でした。溝を小さくするために、学びたいと思う人々に、常にドアを開けておき、政治的キャリアを傷付けずに、対話し学べるようにしたことが有用でした。サイト選定プロセス開始前に、一部の地域からもっと知りたいとのことで、対話の場を構築しましたが、会合だけでなく一緒にコーヒーショップに行くなど交流を重ねていくと、地域の人々との信頼関係が高まり、リーダーもスタッフを信頼し始めました。このような仕組みにより、溝が小さくなり、信頼関係を深めることができました。2007年の時点では非常に大きい溝があり、一方で将来非常に大きな決断をこの地域が行うわけで、その地域社会と良好な関係をもたないと、新聞に何か出したりチラシを配布したりすることなどではその溝が埋まることはないと、われわれの社会科学者はわかっていました。

 

竹内氏

組織といえば、規制当局もありますが、カナダでは地域の方と規制当局との会合もあるとお聞きしました。以前スイスのNAGRAも同様の話をしていました。日本はまだそこまで進んでいませんが、近藤理事長はどのようにお感じでしょうか。

 

近藤理事長

近藤理事長

規制の関与は大事ですが、日本はまだその段階にないと思います。それは、我々が地層処分場に関する安全確保の方法やシナリオを示していないからです。現在、公表準備中の包括的なセーフティケースの報告書では、日本の主要な3種の岩盤を代表とし、瑞浪や幌延で得られた岩盤の亀裂の分布や、地下水の流れを条件として与え、掘削した場合の岩盤の様子や、想定される処分場を示し、環境影響を評価しています。このような資料がでれば、規制当局もレビューの観点が定まり、地域への説明も可能なわけです。カナダはずっと以前よりその積み重ねがあり規制当局が動けたのでしょう。今の段階で我々が規制当局にそうせよとプレッシャーをかけても噛み合わないかもしれない。まずは我々が着実にやるべきことをやっていくことです。国民から見ると、独立した規制当局がウォッチしているということが、活動全体に信頼性を与えることとなるので、独立にコミットしていただくことがとても重要だというのはご指摘の通りと思いますが。

 

竹内氏

段階を踏んで、ということは理解できますが、国民としても独立した規制当局が関与することが安心につながるのかと思います。ナッシュさん、規制当局との会合の意義や特色があれば、簡単に教えてください。

 

ナッシュ氏

規制当局は、地層処分の技術開発に係る会合や、90年代には環境影響評価に関する会合などに参加しました。政府がAPMを承認後、NWMOは規制当局であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)と協定を締結し、公式に関わることに合意し、承認前に規制当局がどのサイトを選んでいくのかも見ていくと規定されています。規制当局は、必ずしもNWMOの活動を承認はしませんが、少なくとも委員会の方と会うと合意してくれました。規制当局の役割、独立した規制当局の役割を地域の方に説明してくれ、その活動を通じて国民の安全性を担保しているのだと説明してくれました。また規制当局から見て地層処分が安全でなければ承認をしないとも説明してくれました。これを続けてくれたおかげで、その重要性、つまり安全性のメッセージが強化されることになったわけです。この規制当局の関与は信頼醸成に非常に寄与したと感じています。

 

竹内氏

今後のカナダのステップを、セーフティケースも含め教えてください。

 

ナッシュ氏

昨年9月に私が退任した時点では、9つの地域が選定プロセスに残っていました。今年、ボーリング調査の予定です。地質調査が行われ、設計、安全評価が行われます。時間の経過に伴い更なる情報が入り、より詳細で厳格な安全評価が行われます。その結果は公表され、公式の規制プロセスの一環ではありませんが、規制当局にレビューを求めます。セーフティケースはこの過程で更新されます。そして、地域の希望に基づきNWMOは単一の地域とパートナーシップを締結し、その地域が次に進むことになります。更なるボーリング調査を実施し、詳細調査や安全評価を行い、規制がレビューしその結果を公開レビューや公聴会にかけ、検証が行われます。これらのプロセスで承認をもらい、処分場の建設となります。このプロセスは、先に進んでいるフィンランドの手順と類似しています。カナダや日本が特殊ということはなく、国際的に共通な考え方で、知見を共有できるのは嬉しいことです。

 

<質疑応答>

 

会場質問1

リスクのないものはなく、いかにリスクを少なくするかであり、地面の中は安定しており素晴らしいと思います。講演で信託基金の設立について紹介がありましたが、これは原子力発電で得られた利益から一括で積み上げられたのか、または今後、原子力発電の利益から、つまり電気料金の値上げの可能性もある中、そこから積み上げるのですか。その場合、電気を買う方の合意は得られていますか。また、日本でもそのような基金を作るのでしょうか?

 

ナッシュ氏

カナダでは原子力政策はオンタリオ州が主体のため、オンタリオ州は核燃料廃棄物法の施行前から信託基金の設立を検討していました。当初は、オンタリオ州の2つの電力会社、最初はオンタリオ・ハイドロ社が、さらにはオンタリオパワージェネレーション(OPG)社が信託基金に拠出するようになりました。この信託基金は電力会社と州政府が共同で運営しています。信託基金には2種類あり、1つは1年毎に発生する使用済燃料に関するもので、もう1つの信託基金は1990年までに発生した使用済燃料のもので、ここに大きな蓄えがあったわけです。

今日、OPG社とオンタリオ州の保有するこの基金については"Virtually fully funded"(事実上完全に資金手当てされたもの)と言うことができます。過去に発生した使用済燃料に対する信託基金はすでに十分にあります。今後の電力会社から拠出は前年に発生した使用済燃料に係る積立てのみに限られ、非常にオンタリオ州は経済的に強く、世界のどこよりもオンタリオ州が財政面に強いといえるでしょう。これは非常に重要なことで、将来世代に対する我々の意思表明であり、将来の世代が支払う必要はなく、電力を使用して廃棄物を発生した現世代が負担するということです。

 

近藤理事長

日本もコンセプトは同じで、基金とは呼んでいませんが、2000年の法律で、将来地層処分に必要な費用を推定し、それに基づきガラス固化体が1本いくらになるか計算し、原子力発電がなされた分に相当する費用を事業者から拠出金としてもらい、原子力環境整備促進・資金管理センターに管理・運用してもらっています。この構造は国際社会一般に共通したものと認識しています。

  

line.gif

会場質問2

私は安全性に関する研究者で、以前、チョークリバーとマニトバの地下施設に滞在したことがあります。カナダは花崗岩で安定していると聞いており、日本は多くの活断層があり不安定ですが、その違いが地層処分への安全にどう影響するかお二人にお聞きしたいです。

また、NWMO 設立時に3名の女性が関わっていたとのことですが、日本は依然として男社会であり考えられないことで、この点もカナダと日本の違いと思いますが、ご意見を伺いたいと思います。

 


ナッシュ氏

女性という点を誇張したわけではないのですが、教育、経験、スキル等を持った方が女性であったというわけです。カナダあるいはトロントは文化の多様な国あるいは都市で、NWMOの従業員130名も多様であり、女性が半数以上で先住民の人もいます。多様性はカナダの強みだと思っています。

地層の安定性ですが、カナダは幸運にも、西海岸のブリティッシュコロンビアには断層がありますが、関心表明した地域が集まるオンタリオ州では地質は活発ではありません。地質の変動だけでなく、岩盤中の亀裂なども調査し、要件を満足しているか確認します。 

 

近藤理事長

カナダは安定していて日本は安定していないと分類せず、ご説明にあったようにカナダにも安定な所と不安定な所があるということが重要です。カナダの安定している所にも昔は氷河があり、そのため五大湖があるわけで、氷河の再来も検討されています。フィンランドの地層が安定していると言われますが、隆起速度は極めて高いです。それぞれの地層の特徴は異なり、それを理解し、何を安全とするか合意を得たのち、それを達成できるか慎重に吟味することが重要です。日本には断層があり、未調査の地下深部に断層が存在する可能性も考慮するよう原子力の安全審査指針に示されています。大事なことは、きちんと調査し、処分場に影響のある活断層がある場所は選ばずに、基準を満たす場所を選定するということについて、丁寧に取り組んでいくということです。

 

竹内氏

お時間が来てしまいましたので、ここで質問を打ち切らせていただきます。ナッシュ様、近藤理事長、ありがとうございました。カナダもメジャーチャレンジはこれからということですので、これからも学びあい、助け合い、叱咤激励しあい、現世代の責任として前に進めるということを一緒に考えていければと感じました。本日はありがとうございました。  

 

YouTube Channel NUMO

 

 

 

 当日使用した資料

 

 開会挨拶時の資料「日本の地層処分事業の最新動向」 PDF

 国際講演会「カナダにおける地層処分計画の現状と今後」参考資料 PDF