ごあいさつ

理事長理事長

今般、国が「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定案を取りまとめ、最終処分関係閣僚会議において審議を行うなど、最終処分の実現に向けた取組みの強化が進められています。こうした大きな動きがある節目のタイミングを捉え、私ども原子力発電環境整備機構(NUMO)の事業内容等についてご紹介しつつ、一言ごあいさつを申し上げます。

NUMOは、高レベル放射性廃棄物(原子力発電所で使い終えた原子燃料を再処理する過程で発生する放射性廃棄物)とTRU等廃棄物(長半減期核種の濃度が高い低レベル放射性廃棄物)をオーバーパックに収納し、その周囲に緩衝材の役割も果たす透水性の低い粘土層を設けるなどの、多重の人工バリア(放射性物質の移動障壁)を施した上で、地上で起きる自然現象の影響を長期間にわたって受けにくい地下300mより深くに位置する、水を通しにくい岩盤に埋設する『地層処分』 の取組みを、人と環境の安全確保を大前提に、地域社会と共生しながら実施することを使命にしています。

このためNUMOは、まず、いくつかの自治体において文献調査を受け入れていただくことを目指しています。文献調査は、地質環境に関する公開文献に基づいて、調査対象地域の地質環境に地層処分の実現を妨げる重大な課題がないかどうか及びその地域で地層処分事業を安全に実施できる可能性を明らかにするために、次の概要調査段階においてどこで調査を実施するべきかを評価・検討し、取りまとめる取組みです。なお、これらの作業は実地踏査をすることなく机上で文献を精査して行うので、言うまでもなく、文献調査の期間中は放射性廃棄物の持ち込みは致しません。

並行してNUMOは、この地域の皆さまに地層処分事業や文献調査についての理解を深め、闊達に議論していただけるよう、また、地域の将来像について地層処分事業の受け入れも候補の一つとして意見交換されることに役立てていただけるよう、地域の皆さまのご意見を踏まえて関連施設の視察や専門家の意見を聞く機会をアレンジするなど、最大限の協力と情報提供を行います。もちろん、文献調査を受け入れていただいた自治体が、この過程でこの事業を将来計画の候補とせず、次の段階の概要調査は受け入れないとすることも自由です。

次の段階の概要調査においては、ボーリング調査等により得られた情報をもとに、受け入れ地域の地下300mより深いところに地層処分場の設置に適した岩盤が十分な広がりを持って存在するかどうか及びそこに長期間にわたる安全性を説明できる処分場を立地できるかどうかについての検討を行います。処分場の安全性が岩盤特性に依存することから、確実に安全性を説明できる処分場を建設できる岩盤を見出すためにも、概要調査を全国の数カ所で実施することにしています。なお、この概要調査及び更に次の段階の精密調査という一連の調査活動に基づき事業許可を得るまでの期間中も、放射性廃棄物の持ち込みは致しません。

NUMOの技術力について

NUMOにとっては、上述のようにして適地を選定し、その地において安全な地層処分場の確実な設計・建設・操業・閉鎖を実施する技術及びその長期にわたる安全性を評価する技術を有していることが大切です。そのため、必要となる技術を計画的に開発実証することに、国内外の関係機関と共同しつつ、継続的に取り組んできています。2021年2月には、上述の調査の実施に備え、これまでに蓄積した科学技術の知見を踏まえて我が国の代表的な地質環境の3つのモデルを作成の上、各モデルにおいて安全な地層処分を実現できる処分場システムを設計し、その長期安全性を評価した結果を「包括的技術報告書」として取りまとめ、公表しました。

さらに、このサイト選定前の段階における安全評価の成熟度を国際水準に照らして評価し、必要なアドバイスをいただくべく、同報告書の国際レビューを経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)に依頼したところ、同機関の設置したフィンランド放射線・原子力安全局のJussi Heinonenn 氏を議長とする国際レビューチームによってレビューが実施されました。

2023年1月にレビュー結果を取りまとめた報告書が公表されましたが、その内容は、

  1. NUMOの報告書は、NUMOが事業の現段階に求められる国際的な取組みと整合する安全評価書を作成する能力を有していることを示している。
  2. これは、放射性廃棄物の地層処分を実施するのに必要な諸点をレビューし、日本の地質学的背景を考慮した上で、その実現可能性の要素を実証していると考える。
  3. 取りまとめた提言に示すように、次のステップに向け、候補サイトの特性に応じた多くの研究やいろいろな取組みが必要であるが、NUMOはそれを果たすための能力を実証している。

というものでした。NUMOとしては、この結論をしっかりと受け止め、今後、そこに示された多くの提言を確実に実行していく所存です。

地層処分事業の現状と理解活動について

NUMOは、2020年11月より、北海道の寿都町及び神恵内村で文献調査の取組みを進めています。現在は、この地域の地質環境に関する文献の収集・評価を机上で行う一方、両町村のそれぞれに、地域の皆さま約20人を構成員とする「対話の場」を設置していただき、この場で、NUMOから地層処分事業に関する情報を提供し、さらには、地域社会の将来に関して意見交換を重ねていただいております。今後とも両町村の皆さまにしっかりと寄り添い、お聞きしたご希望やご意見を大事にしつつ、地域社会における対話の取組みを進めて参ります。

同時にNUMOの任務は、異なる地質環境を比較考量して長期にわたる安全性を最も確実に確保できるところに処分場を建設することです。この任務を全うするためにも、全国のできるだけ多くの地域に文献調査を受け入れていただきたいと考えています。また、2023年2月10日開催の最終処分関係閣僚会議において国は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定に向けて、国を挙げた体制構築の上、有望地点の拡大に向けた活動を強化し、関心地域へ段階的な申入れを行うなどといった改定ポイントを示し、文献調査の実施地域の拡大を目指しています。

NUMOは、従来から文献調査の実施地域の拡大を念頭に、全国各地で地層処分事業に関する対話・広報活動を展開しています。さらには、地層処分についてもっと学びたいとする市民団体の活動を支援してきています。理科や社会の問題としてこのことに関心を示していただける次世代の人々が各地に少なからずいらっしゃることに励まされつつ、地層処分技術や私どもの事業、そして北海道の2つの自治体における取組みに関する学習・意見交換の機会を増やしていく活動を今後も充実させていきます。

高レベル放射性廃棄物等の地層処分は、原子力発電の恩恵を受けてきた現世代のうちに実現しなければならない課題です。上述のような国際レビューの結果を頂戴し、文献調査を進めつつあり、地層処分事業は一歩ずつ前進していると感じておりますが、やはりその実現に向けては、上述の通り更に多くの自治体で文献調査を開始することが肝要です。最終処分関係閣僚会議で示された方針を踏まえ、私どもNUMOとしては、国や各地域の電力会社と協働してできるだけ多くの自治体等を訪問し、関心喚起を図るなど、文献調査の実施地域の拡大を目指す取組みを一層強化して参る所存であり、その決意を新たにしたところです。

社会全体の利益のために率先して文献調査を受け入れてくださった北海道の寿都町及び神恵内村の皆さまにあらためて深く感謝申し上げるとともに、更にいくつかの自治体で文献調査を受け入れていただきたく、このことを心からお願い申し上げる次第です。

2023年2月

原子力発電環境整備機構 理事長

近藤 駿介(Shunsuke Kondo)