対象・教科 中学校3年・社会科

当日の様子

 2014年3月、「資源・エネルギー問題から“核のゴミ”」を考える社会科・公民分野の模擬授業が行われました。対象は中学3年生社会科において2時間で扱うという想定の授業計画です。

 授業の導入として、まず地元広島の町や村を例に平成の大合併について思い出し、そこから全国の村について考えました。村の中でも財政指数が高い六ケ所村について触れ、各自治体の自主財源がどうなっているのかを確認しました。これらの村を中心として、地方自治体とエネルギーについて学んでいくことを確認しました。

 原子力・石炭・石油・太陽光・地熱・水力・LNG・バイオマス、それぞれの発電方法について、3つの観点から比較していきました。コストが一番高いのは石油の4~5倍であるといわれる太陽光、二酸化炭素の排出量が一番多いのは石炭、発電量が一番大きいのは原子力や石油・石炭などの火力であることを学習しました。それを受けて、新聞記事から、再生可能である新エネルギーが普及しない理由が制度上の課題にあるということを読み取りました。
 
 次に、原子力発電によって出るゴミについて考えました。現在の、ガラス固化体にして地層処分をする方法を選択するに至るまでに、各国でどのような処分方法が考えられてきたか、またその方法がなぜ普及しなかったのかを考え、発表しました。 原子力発電の比率が世界で一番高いフランスに着目し、地下資源事情、売電条約について学習しました。
 
 今までの学習を受けて、日本の地層処分に着目しました。高知県の東洋町が処分地に立候補した理由は、自治体の財政問題が背景にあることを確認しました。今回の模擬授業はここまでで終わりましたが、中学校で授業をする場合にはこの後、意思決定の体験ということで、東洋町の中の処分場に賛成・反対している様々な人たちの立場に立って、資料を元に意見をまとめ、各グループでの発表を行います。
 
 最後に先生からの「皆さんは将来の有権者ですから、今のうちにいろいろな知識をいろいろな形で吸収することが大切。勉強する中で、こんな問題があるのか、自分たちにどう関わりがあるのか、その問題を通して現在の豊かな日本の主権者のひとりとして、エネルギー問題を考えていくひとつのきっかけとなればと思います。」という授業のまとめがされました。

広島大学エネルギー環境教育研究会 大森氏


単元計画

基本目標 ・新聞記事などから現代的課題である資源・エネルギーの問題に目を向ける。
・資料の読み取り、分析から自分なりの判断や課題設定、自らはどのように主体的に関わるかという意思決定をしていく。
学習単元

問題の発見・仮の意思決定

新エネルギーには問題がないか

世論の動向

原子力発電に対する世論の動きは

最終判断

原子力発電の高レベル放射性廃棄物の最終処分に対する自分の意見形成

指導案

「資源・エネルギー問題から“核のゴミ”」を考える社会科・公民分野授業

指導案 
  生徒の活動 教師の関わり 授業の様子



導入
  • 広島の自治体から平成の大合併、地方自治体の状態を知る。
  • 宮島町、安芸郡府中町、六ケ所村の例を出して、財政指数や自主財源について触れる。
  • エネルギーについても考えていくということに触れる。
各発電方法
  • それぞれの発電方法について、コスト、CO2排出量、発電量の面から比較する。ワークシート
  • 新聞記事から、太陽光以外の再生可能エネルギーが普及しない理由を読み取る。
  • 各発電方法について、原発で使うウランや、水力発電用のダムのコストなどに触れることで、着眼点を示す。
  • 新聞記事内の言葉や制度について説明し、エネルギーに関する制度に目を向けられるようにする。
高レベル放射性廃棄物
  • 高レベル放射性廃棄物の処理方法とはどのようなものか、どのような処分方法があるのかを知る。
  • 高レベル放射性廃棄物とはどのような特徴があるものなのかを説明し、どう処理をする必要があるのか考えられるようにする。
国内の処分地
  • 高知県東洋町が立候補したことを知り、なぜ立候補したのか、反対運動が起きたのか考える。
  • 授業の最初に説明した地方自治体の話を発展させ、高知県東洋町の財源、産業について説明する。



処分誘致について話し合う
  • 東洋町の処分場誘致に賛成・反対の立場の意見を考える。ワークシート
  • グループごとに賛成・反対の立場にわかれて、資料から自分たちの意見をまとめる。
  • 賛成・反対の立場に分かれてディベートを行う。
  • なぜその立場を取るのか、資料を元に根拠を持って説明できるよう促す。
 
まとめ
  • 自分たちが主権者になった時、同じような問題を考えていかなければいけないことについて考える。
  • エネルギーに関する問題は、国民全員に関わりがあること、生徒も主体的に考えなければいけない問題であることについて説明する。
 

授業を終えて

大森先生のコメント

 生徒たちは将来の主権者になるわけですから、社会では1つのテーマを1つのかたちだけでとらえるのではなくて、いろんな形の問題が世の中にあるということを考えてもらいたいです。また、その背景にあるものをどうとらえるかということを、新聞記事などを通して考えてもらいたい。ディベートというのは自分で考えるテーマの1つを意見として表すという大事な場だと思います。最終的には小論文やまとめのレポートに落とすところまでいきたいです。
 生徒にとっては、過去のテーマの新聞記事を通して自分たちの今のテーマを考えるというのは難しいと思います。歴史的な背景から、エネルギー自給率、エネルギーの変遷、社会で考えれば江戸時代のエネルギー問題も考えられます。時間がないので、今回はそこまではできませんでした。新聞記事を通して資料を読み取ることに重点を置きました。
 六ケ所村と東洋町について財源から見たとき、日本政府の施策の1つである、地方自治体の財源の配分と、エネルギーの処分について考えました。また社会の場合は、税金で行われている施策や、その中で運用されている法律が我々にとってプラスになることもマイナスになることもあることを考えなくてはなりません。しかし、処分場に財政的な背景が根底にあるということだけでテーマを設定するのはちょっと難しかったと思います。

授業で使用した資料



【新聞記事】再生エネ 規制が阻む (朝日新聞 2013年3月25日付)
【新聞記事】基礎からわかる「高レベル放射性廃棄物」 (読売新聞 2013年3月3日付)
【新聞記事】放射線廃棄物最終処分場 建設の実現は不透明 (毎日新聞 2013年1月26日付)