「西南北海道,当丸山溶岩と磯谷溶岩のK-Ar年代と岩石記載:寿都町と神恵内村周辺における第四紀火山の認定について」と題する報告について
2025年7月17日
地質学雑誌第131巻第1号に掲載された
「西南北海道,当丸山溶岩と磯谷溶岩のK-Ar年代と岩石記載:寿都町と神恵内村周辺における第四紀火山の認定について」
と題する報告について
7/17に、地質学雑誌第131巻第1号において、岡村 聡 北海道教育大学名誉教授らにより、「西南北海道, 当丸山溶岩と磯谷溶岩のK-Ar年代(注1)と岩石記載:寿都町と神恵内村周辺における第四紀火山の認定について」と題する報告(以下、「報告」という)が掲載されました(注2)。このうち磯谷溶岩についての当機構の見解は以下のとおりです。
なお、地質学雑誌電子版投稿編集出版規則に示された論文の種類のうち、報告は「卒論・修論等に掲載されたオリジナルデータあるいは業務などの中で得られたデータの報告.」であり、「議論は含まない.」とされています。
【当機構の見解】
〇寿都町の文献調査報告書では、磯谷溶岩が、「文献調査段階の評価の考え方」の火山活動に関する「避けるべき基準」に示された (ア) マグマの貫入等による人工バリアの破壊が生ずるような第四紀(現在から約258万年前まで)における火山活動に係る火道、岩脈、カルデラ(注3)等の履歴 (イ) 第四紀に活動した火山の活動中心 に該当するかどうかについて、十分な文献が無く評価できなかったため、概要調査で特に確認する事項としています。基準に照らした評価を行うためには、年代、マグマが下から貫入しているかどうか(岩脈1、火道、火口など)(注4)、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについて、確認する必要があります2。 〇「報告」では、磯谷溶岩について、年代に関する情報はあったものの、火道、火口などの明確な情報は確認できませんでした。また、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかを評価し得る情報は確認できませんでした。したがって、「避けるべき基準」に該当するかどうかについて、引き続き評価できないことから、概要調査地区の候補は変わらず、文献調査結果には影響しないものと考えています。 〇概要調査に進ませていただいた場合、さらなる調査・検討を行いたいと考えています。 |
1「報告」では、磯谷溶岩の南部には「(略)玄武岩質岩脈が貫き柱状節理が発達する(試料採取地点,ISY-07)」(p.217左列)としている。確認された玄武岩質岩脈は、「避けるべき基準」の(ア)に関係するが、位置が寿都町外である。
2 磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来しない第四紀の火山活動である場合は、磯谷溶岩について別途、基準(イ)への該当性を検討する必要がある。
個別の論点については以下のように考えます。
1. 磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについて
「報告」の説明は以下のとおりです。
・磯谷溶岩の近隣の雷電岬火山角礫岩層を含むいくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、「結論として,磯谷溶岩は(中略)雷電岬火山角礫岩層との近侍性(原文のまま。「近似」と考えられる。)が最も高いマグマに由来した可能性がある.」、「今後は(中略)詳細な分析を行い比較検討する必要がある.」(p.221左列)としている。
・「ニセコ・雷電火山群の基盤にあたる雷電岬火山角礫岩層は,2.0~1.8 Ma(注5)の活動年代が推定されており,上位の雷電山噴出物によって不整合におおわれる.」(p.215左列)としている。
・「活動中心は磯谷溶岩南部の火砕丘(注6)周辺と推定され」(p.221右列「まとめ」の3))としている。
・「磯谷溶岩だけが第四紀初頭に活動し,ニセコ・雷電火山群とは異なる第四紀火山として認定される.」(p.221右列「まとめ」の3))としている。
これに対して当機構は以下のように考えます。
・いくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、磯谷溶岩の一部と雷電岬火山角礫岩層の一部との近似性のみを取り上げ、評価を行っている。その上で、「可能性がある」(p.221左列)、「今後詳細な検討が必要である」(p.221左列)、との評価にとどまっていることから、磯谷溶岩が雷電岬火山角礫岩層と近似性が最も高いマグマに由来したとは断定できない。
・雷電岬火山角礫岩層がニセコ・雷電火山群と異なるとする十分な根拠が説明されていない。
・また、磯谷溶岩南部の火砕丘周辺が活動中心であるかどうかは推定にとどまり、火道、火口などの存在を明確に示す情報が確認できない。
・したがって、磯谷溶岩とニセコ・雷電火山群が異なる火山活動であるとの主張は十分な根拠に基づくものではない。
・文献調査報告書においては、文献に基づき、雷電岬火山角礫岩層とニセコ・雷電火山群を一連の火山岩類として整理しており、これらと磯谷溶岩の関係は十分な文献が無く評価できなかったため、概要調査で確認することとしている。「報告」に含まれる知見を踏まえても、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについては引き続き評価できないため、概要調査でさらなる調査・検討が必要である。
2. 磯谷溶岩の年代について
「報告」の説明は以下のとおりです。
・第四紀初頭の活動年代が推定されている雷電岬火山角礫岩層との化学組成の近似性から、磯谷溶岩の年代も第四紀初頭と推定している。
・「磯谷溶岩のK-Ar年代結果は,2.70±0.60 Maの値で年代誤差を考慮すると鮮新世末期~更新世初期(注7)の活動年代を示す」(p.221右列「まとめ」2))、「測定誤差が大きくなっているが,この原因は大気アルゴンの混入率が高くなっていることによる.」(p.220右列)としている。
これに対して当機構は以下のように考えます。
・上記1.で述べたとおり、磯谷溶岩と雷電岬火山角礫岩層の近似性については、いくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、雷電岬火山角礫岩層の一部との近似性のみを取り上げ、評価を行っていることから、磯谷溶岩の年代を第四紀初頭と認定するには、概要調査でさらなる調査・検討が必要である。
・K-Ar年代測定の結果について、誤差を考慮すると磯谷溶岩の年代は330万年前~210万年前であり、第四紀(現在から約258万年前まで)である可能性があるものの、測定誤差が大きいため、概要調査に進んだ場合、さらなる調査・検討を行う。
注1)K-Ar年代:岩石・鉱物中に含まれる放射性元素の一つであるカリウム40がアルゴン40に変わる現象を利用して岩石・鉱物の年代を測定する方法。
注2)国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルプラットフォーム「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)に掲載された。掲載された「報告」のURLは以下のとおり。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/131/1/131_2025.0019/_pdf/-char/ja
注3)火道:地下のマグマや火山噴出物が地表へ噴出する際の地中の通り道のこと。
岩脈:地下から上昇するマグマが冷え固まってできる板状の岩体のこと。
カルデラ:輪郭が円形またはそれに近い火山性の凹地で、普通の火口よりも大きいもの。
注4)火口:地下のマグマや火山ガスが地表に放出される場所のこと。くぼみ状の地形をしていることが多い。
注5)Ma:百万年前。
注6)火砕丘:火口のまわりに火山噴出物が積み重なってできた丘状の火山体のこと。
注7)鮮新世末期~更新世初期:鮮新世は、約533万年前~258万年前の年代を、更新世は、約258万年前~1万2千年前の年代を指す。
用語解説は、平凡社発行の「最新 地学辞典」を参考にした。