「地層処分に係る社会的側面に関する研究支援事業」採択研究の成果報告会

「地層処分に係る社会的側面に関する研究支援事業」採択研究の成果報告会が開催されました

成果報告会

開催日:
2019年9月6日(金)13:00~17:00
場所:
立教大学 池袋キャンパス 11号館 A203教室
主催:
株式会社三菱総合研究所

>成果報告会のチラシは こちら(PDF形式:1.68MB)PDF
地層処分の社会的側面に関する研究 7研究の成果報告(PDF形式:1.37MB)PDF

※本資料は、成果報告会当日に配布された資料に原田委員長のコメント及び成果報告会の様子を追加したものです。

NUMOでは、地層処分に関する「技術的・地球科学的な側面」に加え、「社会的な側面」に対する社会の関心にお応えするために、「地層処分に係る社会的側面に関する研究支援事業」を実施し、人文社会系の多岐に亘る分野の研究の支援を行ってまいりました。
このたび、支援対象の7件の研究成果がとりまとまったことを受け、その成果を広く情報発信するために、本事業の運営の委託先である株式会社三菱総合研究所が成果報告会を開催いたしました。

当日は、「社会的側面に関する研究支援 運営委員会」の原田委員長より、事業概要についてご説明いただいた後、7名の研究者によるパワーポイント資料を用いた研究成果の発表及び会場からの質問票への回答が行われました。

当日の映像はこちら

当日のプログラムと資料

13:00~13:05 諸連絡

13:05~13:15 委員長挨拶・事業概要説明

13:15~14:25 研究発表(セッション I )

Argumentによる合意形成プロセスモデルの授業デザインと実践
萱野 貴広 氏(静岡大学教育学部理科教育教室 教務職員)

発表資料(PDF形式:2.84MB)PDF  成果報告書(PDF形式:2.35MB)PDF

高レベル放射性廃棄物地層処分の経済的価値と社会的受容性の関係
高嶋 隆太 氏(東京理科大学理工学部経営工学科 准教授)

発表資料(PDF形式:1.15MB)PDF  成果報告書(PDF形式:9.47MB)PDF

地層処分をめぐる住民との対話を促進させる手法の研究
戸谷 洋志 氏(大阪大学国際共創大学院学位プログラム推進機構 特任助教)

発表資料(PDF形式:1.48MB)PDF  成果報告書(PDF形式:301KB)PDF

14:25~14:40 休憩

14:40~16:15 研究発表(セッション II )

信頼の形成に向けて──日本版Citizen Advisory Boardの可能性の探究
秋吉 美都 氏(専修大学人間科学部 教授)

発表資料(PDF形式:911KB)PDF  成果報告書(PDF形式:2.46MB)PDF

地層処分をめぐる多様な人々の合意を目指す段階的・協調的アプローチの提唱:社会心理学の知見にもとづく多角的検証
野波 寛 氏(関西学院大学社会学部 教授)

発表資料(PDF形式:1.80MB)PDF  成果報告書(PDF形式:2.06MB)PDF

高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分をめぐる社会的受容性と可逆性
松岡 俊二 氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授)

発表資料(PDF形式:2.25MB)PDF  成果報告書(PDF形式:2.08MB)PDF

事業プロセスに応じたリスクコミュニケーション施策の検討と実証的影響分析
森川 想 氏(東京大学大学院工学系研究科 講師)
※小松崎氏(研究代表者)の研究協力者

発表資料(PDF形式:1.00MB)PDF  成果報告書(PDF形式:2.21MB)PDF

16:15~16:30 休憩

16:30~16:55 会場からの質問票への回答

16:55~17:00 閉会挨拶

会場からの質問票への回答

参加者から提出された23枚の質問票から、原田委員長が7件(各研究者に1問ずつ)の質問をとりあげ、研究者から回答していただきました。
なお、質問票は、当日紹介されなかったものも含め、今後の研究に活かしていただくために、後日、研究者の手元に届けられる旨も説明されました。

当日の映像はこちら

質疑概要 ※回答は各研究者に確認したうえで掲載しております。

1質問票への回答

(質問)一般論として、ゲームでは客観的に考え、現実では利己的に考えることが多いと思われる。両者に異なる傾向があるならば、ゲームで実施することの意義についてどう考えるか。

(萱野氏)中学生に高レベル放射性廃棄物地層処分の問題を学ぶ必然性を持たせるのは非常に難しく、iPadの活用、ゲームとしての取り組みでも十分とは言えないが、少なくとも彼らはiPadの操作を楽しみながら様々な情報をもとに処分地を選定するまで客観的に考えることができる。しかしゲームでも最終判断の段階でかなり主観が入るのは、質問者の指摘の通りである。このゲームが「処分地を選定する場合の自分の考え方を認識して、他の人と話し合うための基礎を用意する」ことを目的にしているという点においては、NIMBY思考につながる客観と主観をその後の議論の場で自覚することにも大きな価値があると考える。思考と議論をリードするワークシートの構成とともに、今後の実践に大変参考になった。一部繰り返しになるが、このゲームで考えさせることの価値としては、[1]判断までのプロセスを疑似体験できること、ワークシートを併用することで議論するスキルを身に着けられること、[2]iPadを利用し生徒の興味・関心を引き出すことで、地層処分のような難しい社会問題も学びの対象として受け入れられること、が挙げられると思う。

(野波氏補足)自分も地層処分を題材としたゲーミングを用いた研究をしているが、人々がゲームを通してこれまでに考えたことのない視点や意見を考えたり、人から意見をぶつけられたり、その意見に自分なりの考えで対応する、といういわゆる思考訓練をする点がゲームの教育的価値であり、意義があると考える。「自分で考える」ことの訓練を行う教育ツールとしても、ゲームの応用的価値は高い。

2質問票への回答

(質問)「情報保有量を高める方策」と「信頼できる情報を参加者で共有できること」が重要。そのためには、情報を読んでもらう方策が重要と考えるが、どう考えるか。

(高嶋氏)情報保有量が高いということと、情報の信頼性が高いということは、非常に相関性が高い。情報保有量を高めることについては、今回の研究の対象とはしておらず、今後の課題と認識している部分である。
一例として、中学校の教科書改訂により、世論がどう変わっていくかが世論調査で追跡されている。もし、中学生が高校生、大学生と成長するにつれ、世論が変わるのであれば、教育の情報保有量が高いということとなる。

3質問票への回答

(質問)哲学対話のオリジナルの発案者は誰か。また、ドイツの哲学者の影響はあるか。

(戸谷氏)哲学を市民と語り合うワークショップの形式は、1992年にパリでマルクソーテという哲学者が実施した「哲学カフェ」が源流とされる。日本では、2000年代に入ってから浸透してきた。
ドイツの哲学者(資料中のハイデガー等)と哲学カフェに関係は無い。ドイツの哲学者の思想(科学技術はなくなればいい)をそのままではなく、生産的な方向に考え、哲学対話で原子力を扱うというのは自分のオリジナルである。

4質問票への回答

(質問)MRとCRのグループで学生の知識の違い、同質性・異質性はどうだったのか。

(秋吉氏)理想としては、参加者全員の知識レベルを計測し、ランダムに振り分けることが望ましい。しかし、今回の場合、高レベル放射性廃棄物に対する最初の知識は、どの学生もほぼ0で、全体として知識が低い状況であった。そのため、まずはNUMOによる基本的な説明を学生に聞かせたうえで、グループ分けでは、学部、学科、学年等が偏らないような構成を行った。

5質問票への回答

(質問)NIMBY問題はそもそも差別構造を明確にしたものと認識している。高レベル放射性廃棄物は典型的なNIMBY問題とされているが、このような歴史的認識をどう考えるか。

(野波氏)差別がいけないという話は、哲学的な議論になり得る。つまり、全体的な利害を重視すべきか、一人ひとりの人権を重視すべきなのかという議論につながると思う。特にNIMBY問題では、「一人ひとりの幸福が大事だから少数者の幸福も大事」という民主主義で当たり前の倫理を貫徹しようとすると、地元住民の方々に無限の拒否権を与えることになる。それは結果的に、当事者の優位化と拒否の連鎖を生み、地層処分場はどこにも立地できず、社会に大きな不利益をもたらすことになる(社会的ジレンマ)。
心を鬼にして言うと、NIMBY問題解決のためには、どこか一部の少数者には我慢をしてもらう、一方、多数者の側も我慢を押し付けていることを自覚しなければならない。少数者の切り捨てに葛藤はあるが、学術的な立場としては、「どうしても社会全体の利益を追求しなければこの問題は解決しないが、皆さんはどうするのか(一部の少数者に納得の上で我慢を引き受けてもらったとしても、一部の人々に我慢を押し付けるという構造そのものが変わるわけではない)」と逆質問を投げかけなければならないと考えている。
一方、これまでに研究してきた中で言えることは、NIMBYの場面において差別する側と差別される側には立場や価値観の違いがあるが、それでも立場や利害を超えて共通的な価値(共通通貨)が必ずある。今回の地層処分で言えば、「次世代の幸せ・利益を最大にすること」が共通的な価値になるのではないか。次世代の利益のために、双方が現時点で精一杯考えて行動するということが、次世代に対して私たちの取るべき行動になるのではないかと思う。

6質問票への回答

(質問)フランスのCNDP(国民的討論委員会)の国民的議論とその経過、失敗の原因を紹介してほしい。

(松岡氏)フランスの経緯は以下のとおり。

  • ・1980年代終わりにトップダウンでの最終処分実施に反対運動が起こり、1991年に法律(バタイユ法)で「核変換・地層処分(可逆性ある地層処分、可逆性のない地層処分)・地上処分」について、15年研究した後に国民的に議論することを決定。
  • ・1回目のCNDP(国民的討論委員会)の議論(2005年)では、将来世代の選択肢を残す暫定的な地上保管という意見が参加市民のマジョリティを占めた。
  • ・2回目のCNDP議論(2016年)では、ビュールでの地層処分を議題としたが、幾つかの市民組織の強い反対が起こり、オープンな場での議論が困難となったことで、Web上での議論しか行われなかった。その後、今年の夏前から3回目のCNDP議論が放射性廃棄物管理計画について実施されているが、市民組織は冷ややかな反応であるようだ。
  • ・現状では、ビュールの地下500mに可逆性のある地層処分する方針となっているが、施設工事の完了までに120年程度かかるため、120年後の世代が坑道を埋め戻すか否かを決定できるようにするという法律になっている。3回のCNDPの議論によって、多様なオプションを含めて国民的議論が行われてきたが、まだ結論が出ていない状況である。
  • ・私は地層処分政策をめぐる広範な社会的討議をすべきであると主張しているが、フランスの事例のように社会的討議をしたから必ず決まるというわけではなく、また、今決めないといけないのかどうかも含めてこの問題は議論しなければならないと思う。

7質問票への回答

(質問)科学的特性マップは処分地としての適否を科学的に示す根拠がないのではないか。その地点の地層が適しているか否かが全く考慮されていないのではないか。

(森川氏)科学的特性マップはサイエンスの範疇であり、社会的な意図を読み込まないほうが良いかもしれないという立場は理解できる。ただ、本研究では社会的側面を扱うため、科学的特性マップはコミュニケーションツールの1つとして出す情報と考えており、他のコミュニケーション施策との組み合わせにより何らかのポジティブな影響を持つのではないかという仮説のもと研究を行った。
また、科学的特性マップがサイエンスに関するものだとしても、それが信頼の低下という社会的現象と同時に現れている点は重く見なければならないと思われる。科学的特性マップの位置づけは、出す側が誤解のないよう提示することが重要である。社会問題に関わるサイエンスの情報は、公表による影響をしっかり見ていかなければならないと考えている。

原田委員長によるまとめ

8質問票への回答

  • ・社会的側面に関しては、「多様な切り口がある」ということ、「直感に反するものもあればフィットするものもあるといったように様々な主張がある」ということを教えていただいた。
  • ・そのうえで、地層処分に係る社会科学的な議論の空間というものを、さらに発展・充実させていく必要があると思われる。
  • ・本日の7名の研究者以外にも裾野を広げていくことに意義があり、わが国の社会科学はこうした潜在的な能力を有していると考えられる。
  • ・結論として、地層処分に係る社会的側面に関する研究を、さらに深く広く進展させていく必要があるという感想を抱いた。

当日の映像

※成果報告会に関する情報は、主催者である株式会社三菱総合研究所のご了解をいただいたうえで掲載しております。