山陰エネルギー環境教育研究会 栢野彰秀代表


エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。山陰エネルギー環境教育研究会(栢野彰秀代表)は、理科を中心にエネルギーそのものの概念の理解を土台にして、単元の狙いを達成する授業づくりをメンバーが共有しながら、エネルギー環境教育の実践に取り組んでいる。

正しい知識が基本

理科教育のカリキュラム研究をテーマとし、山陰地方の教員養成に尽力する島根大学教育学部の栢野彰秀教授を中心に発足した山陰エネルギー環境教育研究会は、附属義務教育学校や島根県内の教員を中心に、エネルギー環境教育のカリキュラムづくりに取り組む。

新学習指導要領解説理科編では、中学2年「電流とその利用ア電流」で「放射線の性質と利用にもふれること」が記載された。単元として「電流」の授業をしながら放射性物質、放射能、放射線の基礎理解へとつなげる授業が求められる。その延長線上に中学3年「科学技術と人間 ア エネルギーと物質」の「放射線にも触れること」がある。指導要領に沿って授業を構想すれば、放射線教育や高レベル放射性廃棄物の地層処分の学習は自然と取り上げることができる。

附属義務教育学校は、島根原子力発電所から半径10㎞圏内にあり、原子力防災の避難訓練も毎年行われる。放射線教育や高レベル放射性廃棄物の地層処分の学びは、生徒たちの「生きる力」を育むために不可欠だ。しかし、身近にある原子力発電所と高レベル放射性廃棄物の処分問題を結び付けられる生徒は多くないと言う。だからこそ理科に軸足を置いた正しい知識に基づく指導が必要だと栢野教授は考えている。

自作教材から始める指導力向上

必要性があるとはいえ、単元と離れたところで「投げ込み教材」のように扱ったのでは生徒の思考力育成にはつながらない。栢野教授は「研究会のコンセプトはエネルギーそのものの概念理解に基づいた実践をすること」と話す。理科はもとより、社会科や家庭科、総合的な学習の時間などでエネルギーと環境の問題を取り扱う際も、「エネルギーそのものの概念理解がなければ妥当な指導案は作れない」と指摘する。

そのため、研究会では日々の授業に役立つ教材開発を大事にする。手回し発電機でLEDアレイを光らせて、運動エネルギーを光エネルギーに変える「電気エネルギーの相互変換教材」は「電気エネルギー」の単元で使える教材だ。授業を担当する教員(研究会メンバー)には1クラス分を作って貸与する。

ものづくりの経験が少ない今の若手には手を動かして教材を自作する経験は貴重な機会となるし、実験材料は、研究会で準備しているので、気軽に参加できる環境を整えている。

栢野教授は「先生や教員を目指す学生に常々伝えているのは、口先だけで授業をしないでほしい、ということ。教科書に掲載されている図で終わらせるのではなく、実物にふれて子どもが学べる自然の事物や現象を見せてほしい。そのためには教材を自分で作れる力が先生たちには必要」と話す。

観察や実験を通して考える力を育てる

中学3年で高レベル放射性廃棄物の処分問題を扱う際も、中学2年での放射線の学習をおさえたうえでの授業実践が前提だ。2021年度に附属義務教育学校後期課程第9学年(中学3年に相当)の理科で、宮下健太教諭が実践した「放射線の性質」(全5時間)は、世界のエネルギー使用量の推移や各発電方法のしくみを学び、前年度の「放射線の性質」を復習。その後、原子力防災のための行動の在り方を考えさせ、最終的に高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える時間にあてた。

原子力発電環境整備機構(NUMO)の中学生向け基本教材「高レベル放射性廃棄物について考えよう」や、地層処分の人工バリアのひとつであるベントナイト(粘土)を使った実験を活用して、生徒の「目に見える工夫」を取り入れた。

「観察・実験をする、現場を見る、論理的に考えることを通して、子どもの気付きを促す取組みをすれば、高レベル放射性廃棄物の地層処分は生徒にとって自分ごととして真剣に取り組めるのではないか。これから実践する先生には、1回で終わらせず、2回やってみてほしい。1回目を振り返れば教え方や展開も習熟する。2回目で手ごたえを感じられるはずだ」と栢野教授は語る。

島根大学教育学部附属義務教育学校での授業風景

島根大学教育学部附属義務教育学校での授業風景