技術教育研究所

(左から)弘前大学教育学部の長南幸安教授、技術教育研究所の福眞睦城代表 (左から)弘前大学教育学部の長南幸安教授、技術教育研究所の福眞睦城代表

エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を広げていくことが重要となる。今回は、“燃える氷”メタンハイドレートを教材化し、水産高校での活用を試みた青森県の技術教育研究所の取組みを紹介する。メタンハイドレートを学ぶことによって海底や地下の安定した性質に着目し、高レベル放射性廃棄物の処分問題を意識できる発展的な内容だ。教材開発を手掛けた技術教育研究所の福眞睦城代表と、弘前大学教育学部の長南幸安教授に実践の手ごたえを聞いた。

青森県・技術教育研究所

青森県弘前市にある技術教育研究所は、テクノロジーを含めた理化学の楽しさや面白さを子どもたちに伝えようと、教員OBや現職教員、大学教員、学生、理科実験を得意とする有志らが集う研究団体だ。小中学校を対象とした理科実験の出前授業やショッピングセンターで理科実験ショーを企画・実施してきた。メンバーは現在約30人で、発案者の呼びかけに応じて、興味・関心のあるメンバーが集まり研究する自由なスタイルが持ち味だ。

エネルギー環境教育については、メンバーの一人である長南教授らを中心に活動している。

卒業研究として、新しいエネルギー資源として注目されるメタンハイドレートを教材化してみたいという学生からの声に応えて、2020年度から山形県立加茂水産高校、青森県立八戸水産高校、北海道函館水産高校の3つの水産高校で教材開発・授業実践を試みている。

科学的知見に沿って、自ら考え判断する力を養う

高校水産科の教科書で“燃える氷”として登場するメタンハイドレートは、メタンが水分子に囲まれた氷状の固形物質だ。日本周辺の海底に大量に存在し、特定の温度や圧力下のみで存在している。

授業では、メタンハイドレートの生成実験を行う。メタンハイドレートが生成されるまでのおよそ2時間、エネルギー環境や放射線、メタンハイドレートが地中のどのような性質によって蓄積されているかを学習する。科学的知見を学習したうえで、高レベル放射性廃棄物の処分方法について選択肢(地層処分、宇宙処分、海洋投棄、氷床処分、地上施設での長期保管)を提示し考察させることで、自ら考え反する力を養おうとしている。

放射線教育のリテラシーが必要

生徒には高レベル放射性廃棄物の処分方法に対して、それぞれの利点や欠点、条約等での問題点を説明した後、どの処分方法が最適かをアンケート形式で答えてもらった。

「メタンハイドレートが何万年も安定して海底に埋蔵されていたのはなぜかと考えさせることにより、安定した地下深部へ処分する地層処分が最適な方法だと発想できると期待した」と長南教授は思いを語った。

しかし、アンケートの回答には、高校ごとにばらつきが見られ、地層処分を選択する生徒が多くみられた高校がある一方、宇宙処分を選択する生徒が多い高校もあった。

長南教授は「原子力関連施設の立地県かどうかが生徒の反応に影響を及ぼしているのではないかと考えられる」とアンケート結果を分析した。

今回の教材開発と授業実践を通して、「高校生に放射線や放射能、半減期、透過力などについての理解が土台にあれば、高レベル放射性廃棄物の処分問題について、より当事者意識を持たせることが可能だろう」と、長南教授は感じている。

そのためには小中学校段階から、放射線に関わるリテラシーを伸ばしていく必要があるだろう。ただ実際には小中学校では教科書内容の教授が精一杯であり、それ以外のことを指導できる状態ではない。今後、教科書へ放射線リテラシー全般にかかる記載がなされることが求められるのではないだろうか。

福眞代表は「高校での実践をヒントに今後も授業研究を進めていきたい」と話す。

今年度は水産高校と連携を続けながら、開発したメタンハイドレートの教材を現場の先生に用いてもらい、授業に組み込んでもらう予定だ。

2021年1月に山形県立加茂水産高校で実施した講座風景 2021年1月に山形県立加茂水産高校で実施した講座風景
メタンハイドレートの燃焼実験 メタンハイドレートの燃焼実験