沖縄エネルギー環境教育研究会

(左から)濱田栄作・琉球大学教育学部教授、清水洋一・琉球大学名誉教授 (左から)濱田栄作・琉球大学教育学部教授、清水洋一・琉球大学名誉教授

エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。沖縄エネルギー環境教育研究会(清水洋一代表・琉球大学名誉教授)は、県内の現役教員と教員を目指す学生が協働して授業プランを開発中だ。検討会では毎回、白熱した意見交換が行われている。

沖縄だからできるエネルギー環境教育

沖縄エネルギー環境教育研究会は、沖縄県内の中学校教員を中心に、小学校、中学校、高校、大学の教員、教育関係者約60人が連携してエネルギー環境問題に関する勉強会や、授業実践を継続的に実施してきた。授業開発検討会や実践報告会、施設見学、外部講師を招いた講演会など活動は盛んで、石垣島など離島からの参加者もいる。

沖縄県のエネルギー事情は本土とは異なる特徴を持つ。広大な海域に160の島々が点在し、うち47の有人島の多くに、それぞれ小規模の火力発電所が設けられている。原子力や水力発電の設置が難しく、県内の2019年度のエネルギー自給率は2.7%にとどまる(全国では12.1%)

こうした背景から同会は子どもや学生へのエネルギー教育の必要性を感じ研究活動を続けてきた。清水代表は「プラグをコンセントに挿せば電気はいつでも使えると思っている子どもが多い。しかし、それは当然のことではないと知ってほしい。沖縄では豚を“泣き声以外は全て食べ尽くす”と言われ、無駄にすることなく活用してきた。同じように地産エネルギーも徹底的に使っていこう、そう伝えている。」と、熱く語る。

人やモノは必ずどこかでつながっている

同会が近年力を入れるのは、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する授業実践だ。原子力発電所がない沖縄県でなぜこのテーマを扱うのか。

「それは、子どもたちからもよく聞かれる質問」と答えるのは、同会のメンバーで琉球大学教育学部の濱田栄作教授だ。「衣食住をはじめ、さまざまなものは沖縄の中だけで作られているわけではない。必ずどこかで原子力発電の恩恵を受けている。だからこそ地層処分のことを考えなければならない、と話すと学習の必要性を受け止めてくれる。」と濱田教授は言う。

また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は現在進行形の課題であり、未来を切り拓く資質・能力を育成する現代的課題としてふさわしいと捉えている。

中学校学習指導要領解説の理科編には「持続可能な社会をつくっていくために科学的な根拠に基づいて賢明な意思決定ができる態度を育成すること」とある。さらに、OECD(経済協力開発機構)も教育プロジェクトEducation2030において「異なる考え方を持った人々と協働すること、対立やジレンマを克服する力の育成」を教育の未来像として掲げている。

処分地選定の合意形成過程を教材化

教員志望の学生にもこの認識は共有されている。6月4日に行われた授業開発検討会では、高レベル放射性廃棄物をテーマとしたタブレット学習教材の開発と実践をテーマに、琉球大学4年の赤嶺優奈さんがワークショップを行った。

赤嶺さんはスイスで作られた処分地選定の合意形成を疑似体験できるアプリに着目。日本語版を制作した静岡大学の大矢恭久准教授にもアドバイスをもらいながら、中高生向けに改善し、理科の授業で使おうと構想中だ。

授業では、原子力発電環境整備機構(NUMO)がホームページで公開している「基本教材」や動画を活用しながら、地層処分に関する知識を学び、その後、アプリを使って地層処分地を決めるグループ活動をする。

この日は現職教員と学生がグループになり、アプリを体験。原子力発電所を3つ持つ仮想の地域で処分場にふさわしい場所を討論し選んだ。そして、中学生が取り組むならどのような改善が必要か、難易度や操作性などを検討した。

学生からは「文字資料だけでなく動画があると分かりやすい」「50分では足りない。情報収集と話し合いの時間を別に確保したほうがいい」という意見が、現職教員からは「1人1台タブレットがあるので中学生には取り組みやすい」など現場のICT環境を生かせるとの声も出た。

赤嶺さんは今後、アプリを中学生向けにアップデートし11月以降に中学校で研究授業を行う予定だ。「地層処分地選定の合意形成や処分地の建設までにかかる今後30年間、私や今の中学生は当事者世代となる。そのときに科学的に判断する力を発揮できるよう、教材づくりを進めていきたい」と意欲を見せている。

処分地選定体験アプリを検討する学生と教員

処分地選定体験アプリを検討する学生と教員